上海中医薬大学 日本校校長
尿トラブルの養生法
新しい年を迎えましたが、皆さまいかがお過ごしですか?
2019年も皆さまに笑顔と養生をお伝えして参ります。
尿トラブルの要因
尿のトラブルは主に「頻尿」と「尿失禁」の2つに分類されます。
健康な人は日中に平均5回トイレに行き小便をしますが、夜間には殆どトイレに行くことはありません。
「頻尿」
昼間や夜間の排尿回数が通常より多くなった状態です。
原因は色々があり、水分の摂りすぎ・膀胱炎・前立腺肥大・加齢による骨盤底筋・尿道括約筋の機能低下、脳血管障害・脊髄損傷などに分かれます。
国際尿禁制学会2002年に尿意切迫感(我慢できない尿意)及び過剰な頻尿については「過活動膀胱(OAB)」として定義されました。
「尿失禁」
自分の意志とは関係なく尿がもれてしまう症状です。
原因によっていくつかのタイプに分かれますが、下記の表のほかにも薬の影響などによって尿漏れが起こる場合があります。
ちなみに、多くの女性には腹圧性の「尿失禁」があります。
尿漏れ、尿失禁、頻尿、膀胱炎、尿が出にくい
などの排尿障害の症状があれば、まず、泌尿器科で早期診断と早期治療を行う必要があります。
一部の患者は婦人科、脳神経内科、心療内科などへの受診の必要があります。
「腎」の不調
東洋医学では、尿トラブルは水分代謝や排泄を司る「腎(じん)」の不調と深く関わっていると考えられてます。
東洋医学の診察法では、独自の望(ぼう)、聞(ぶん)、問(もん)、切(せつ)の「四診(ししん)」と呼ばれる方法があります。
食欲の具合や睡眠の状態、日常生活のことなど、頻尿・尿漏れとはあまり関係ないように思われることを問診で尋ねたり、
お腹や舌、脈を診たりすることがあります。そして、
「四診(ししん)」の結果に「弁証論治(べんしょうろんち)」を行い、身体のバランスが戻れば、
症状の緩和または治癒することができます。
「四診(ししん)」と「弁証論治(べんしょうろんち)」は、いずれも漢方薬や鍼灸、推拿(すいな)などの治療方法を決めるための根拠になります。
東洋医学から観た尿トラブルの原因には、
腎陽虚(じんようきょ):
脾気虚(はいききょ)
三焦水滞(さんしょうすいたい)
気滞瘀血(きたいおけつ)
などの病因があります。
また、感染がないにもかかわらず、頻尿に下腹部の不快感、蓄尿時の痛み、残尿感が合併する膀胱痛症候群や間質性膀胱炎など
無菌性炎症の場合は、漢方薬を用いて、下腹部の不快感や痛みなどを改善させることができます。
腎の陽気が不足する場合、頻尿や尿漏れが起きやすくなりますが、脾腎の陽気は加齢や過労、出産などで消耗されやすくなります
「腎」を食事で補う
腎を補うとされている、
- 豚肉:補腎効果、体力回復効果
- 田七人参:止血作用、肝腎を癒す
- 山薬:頻尿予防、食欲促進、体力回復
- 栗:健脾効果、頻尿・尿失禁予防
- くるみ:頻尿予防、足腰の衰え防止
- 黒豆:全身のむくみ、余分な水分を排出する、利水効果
- 黒ゴマ:老化防止効果、足腰の衰え防止
薬膳料理の食材として用いられます。
過度な生理出血、多汗、性生活の過剰などの場合、収斂(しゅうれん)作用のある食材を摂り、
引き締める力を補って、出すぎるのを抑えてくれるはたらきがあります。
また、尿トラブルと同時に体の冷えを感じる場合は、腎の陽気が不足していると考えられます。
脾腎、三焦、陽気を補う食材とともに、温熱の性質を持つ食材を摂ることがおススメです。
例えば
- 桂皮(シナモン):冷え予防、
- ニラ:冷え予防、活血効果
- エビ:補気効果、足腰の冷え予防
- 生姜:健脾効果、腎を温める温中効果
- 唐辛子:腎を温める温中効果
などの食材を取り入れた食事をすることも腎を補う大切な事です。
「腎」を運動で補う
食事の他に「腎」を補うことは、運動です。
散歩、ジム、水泳などを毎日続けていると、弱った骨盤底筋を鍛え、筋力をつけることで、臓器が下がるのを防ぎます。
また、尿道・肛門・腟の筋肉をきゅっと締めたり、緩めたりし、これによって骨盤底筋が鍛えられます。
まずは、意識的にぎゅうっと筋肉を締め、3秒間ほど静止し、ゆっくり緩めます。これを2~3回くり返し、引き締める時間を少しずつ延ばしていきます。
1回5分間程度から始めて、だんだん増やしていきましょう。通勤途中や入浴中や家事をしながらでもできるようになるでしょう。
「腎」を心で補う
尿トラブルは生活習慣だけではなく、心因性のものがあります。
心因性の頻尿や尿漏れに関係する神経症、自律神経失調症の克服のためには、根本から改善する心理療法があります。
心理療法によって、ストレスの多い難しい環境にも適応できるような心身をコントロールする技術を習得することができます。
そのため、泌尿器科や婦人科などの受診においても、原因が不明の場合は神経内科や精神科、心療内科を勧められることがあります。
リラクゼーションと同時に神経をうまく使えるようにすることが必要であり、ヨガ・座禅、催眠療法(ヒプノセラピー)、カウンセリング、
代替療法などによって、安全に、しかも短期間で改善できる場合があります。
それでも改善できない場合は、ベンゾジアゼピンに代表される精神安定剤や抗不安薬等の向精神薬を処方されることがありますが、
これら西洋薬(化学合成薬)は副作用が非常に強く、特に依存性が強いため、心理的な依存だけでなく身体的な依存性や離脱症状も強く、
長期間の服用の安全性は確かめられていません。
尿トラブルの養生は、基本的には睡眠や休息などの生活習慣や食事を基本に、心と身体のバランスを取ることが必要です。
自分は他人と同じ時間と場を共有でき、リラックスした気持ちで安心し、楽しく有意義な会話ができる、ということに努力したほうが、
結果的には頻尿症の克服のための自信にもつながります。
心と体はつながっていることを大切にしながら、自分の体の養生につとめてまいりましょう。
上海中医薬大学 日本校
矢尾
上海中医薬大学 日本校校長